「当初は進歩的な中産階級、今は元軍人や治安機関出身者も」ロシア地下組織「黒い火花」—元国営ガス系幹部が揺るがす?“プーチンの未来” 【単独インタビュー 後編】

今年に入って、ウクライナ軍によるロシア領内への攻撃が続いている。
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エネルギー関連施設を標的にしたものが目立つが、実はこうした攻撃を、ロシア国内に存在する「地下組織」が情報面などで協力しているという。
ロシア国営天然ガス大手「ガスプロム」系企業の元幹部で、地下組織「黒い火花」の“公の代表”として情報を発信するイーゴリ・ヴォロブエフ氏がBS-TBS『報道1930』の単独インタビューに応じた。
「ロシア国内に生まれた第3の戦線」
――ウクライナに協力してきた他の義勇兵や組織と「黒い火花」は何が違うのでしょうか。
正直、ロシア国内にこれほどの規模と能力を持つ地下運動は他にないと思います。ウクライナ領内で戦うロシア人義勇兵もいますが、「黒い火花」は全く別の話です。「黒い火花」は自分たちがプーチンと戦う新たな「第3の戦線」を開いたと考えています。
第1の戦線は、実際にロシアとウクライナが戦っている前線です。第2の戦線は国際社会がロシアに加えている政治的・経済的圧力です。そして今、ロシア国内に新たな大規模な戦線が生まれましたが、これは極めて過小評価されています。
プーチンは「ロシアでは抗議など不可能だ」と私たち全員に思い込ませるため、大きな力を注いできました。しかし「黒い火花」のメンバーは、ほぼ毎日、それが間違いだと証明しています。自分たちの国が悪をもたらしていると確信していても、一人で行動に移すのは難しい。そこで私の主要な役割は、この組織への信頼を高め、人々に「自分は一人ではない、加われる相手がいる」と理解してもらうことです。
「ランボーである必要はない」
――どのような職業経験やバックグラウンドを持つ人々が参加しているのでしょうか。
実質的な制限は年齢だけです。未成年者とは一切協力せず、いかなる形でも参加させません。これは原則です。
参加者は大きく2つのカテゴリーに分けられます。第一は、現場で作戦に参加し、火をつけたり爆発物を準備したりして爆破工作を行う層。もう一つは、身体的事情などでそれができなくても、機密情報にアクセスできる層です。隠蔽されている小規模な石油基地の場所や、警備体制、作動していない監視カメラの情報などを地元住民や従業員が提供してくれます。
ですから、必ずしも「ランボー」のような人である必要はありません。身体的に訓練された人でなくてもよいのです。唯一の連絡手段は電子メールだけです。協力を申し出たりメンバーになる提案を送ることができます。
――参加者はロシア人ですか、組織全体の構成、可能なら人数や地域を教えてください。
当初は「進歩的で民主的な考えを持つ中産階級」、石油・ガス企業に関係してきた人や政府上層部に出入りできる人々が創設しました。今では元軍人や治安機関出身者も加わり、社会的な構成は大きく広がっています。人数は公表しませんが、現在はロシア領土の大部分をカバーしています。土地感を熟知した地元の人が協力することが極めて重要なのです。
「創設者たちは今も全員、忠誠装いロシアに潜伏」組織の信頼を高めるため“私は顔を出す”
――内部情報の重要性や、監視カメラへの対応についてもう少し詳しく。
内部情報があれば、石油基地が満杯のタイミングを狙って攻撃できます。また復旧作業の進捗を知ることで、最大の損害が出るタイミングを計れます。さらに、優れたサイバー専門家が監視カメラを遠隔で停止させ、作戦実行や撤収の際の安全な通行経路を確保しています。
ーー相手が本当に協力者なのか、FSB=ロシア対外情報庁が送り込んだ人物なのかをどう見極めるのですか。「黒い火花」自体がFSBと協力する「おとり組織」ではないか、という主張もあります。実際に善意で協力したい人とそうでない人を、どう見分けているのでしょうか。
おっしゃる通りです。実際、私も「偽装組織ではないか」と何度も言われました。だからこそ、この組織への信頼を高めるため、私は顔を出して公的な代表になりました。私には戦闘経験を含む経歴と評判があります。私は自分の名誉をかけて、この組織がFSBのおとりではないと保証します。少しでも疑いがあれば引き受けませんでした。
そして実績を見てください。もしFSBが関与した「おとり組織」なら、ウクライナ軍に製油所7か所、ガス処理工場、軍艦1隻、パイプライン、100両以上の機関車を破壊させると思いますか? 潜入のための代償としては大きすぎます。そんな代償を払ってくれるなら歓迎ですし、いつか一緒にクレムリンまで燃やせるかもしれない。
創設者たちは今も全員ロシア国内におり、表面上は体制への完全な忠誠を装って潜伏しています。また、組織は非常に細分化されており、一つのセル(細胞)が摘発されても全体が明らかにならない構造になっています。
「俺たちと一緒に歩く覚悟はあるのか」と問われ引き受けた
――なぜ「黒い火花」の公の顔、広報役になることを受け入れたのですか。
自分の姿を一つの例として示したかったからです。2022年、ウクライナ軍の領土防衛隊に入った私の友人、70歳の記者セルゲイ・ロイコを見た時、「なぜ50歳の自分がモスクワで満腹そうな顔をして座っているのか」と自問しました。それが私の原動力でした。ロシア人に立ち上がれと呼びかけてきた私に、彼らから「『ロシア人よ立ち上がれ』と言ってきたんだろう。じゃあ今、俺たちと一緒に歩く覚悟はあるのか」と言われました。そう言われて引き受けない選択肢はありませんでした。彼らを誇りに思います。いつか名前が明らかになった時、彼らには記念碑が建つでしょう。
――元「ガスプロムバンク」幹部としての経歴も、注目を集める効果を持っていますか。
そうであってほしいですが、重要なのは私に対する信頼でしょう。暖かい国へ移住して「プロの口先だけの人間」として喋ることもできましたが、私はウクライナへ戻り、軍で戦い、前線で負傷もしました。2023年4月にバフムト近郊で負傷した際、私と位置を交代してかばってくれた20歳のベラルーシ人の若者が亡くなりました。
そうした行動と積み上げた評判が、信頼につながっているのだと思います。「ガスプロム」(ロシア国営天然ガス大手)には16年半勤め、広報責任者などを務めました。その後、体制に不忠実だと知られて「ガスプロムバンク」へ左遷されましたが、2022年3月にウクライナ軍に入りました。
「参加者の安全と民間人に死傷者を出さないことが条件」
――エネルギー施設に対する無人機攻撃は、プーチン体制の戦争遂行能力やロシア経済にどれほどの打撃に。
精製施設やパイプラインが破壊されると、連鎖的に原油生産そのものを減らさざるを得なくなります。一度止めた油井を再稼働させるのは極めて難しく、二度と復旧できない場合もあります。さらに軍の燃料使用量にも制限が出始めています。また、国内で処理できない原油はインドや中国へ30〜40%引きの「捨て値」で流さざるを得ず、ロシアの資金源が削られています。
連邦予算に占める石油・ガス収入は、2025年には約23%まで低下する見通しです。さらに、精留塔などの大型設備は輸入依存度が高く、復旧には数か月かかります。その復旧費用を国家予算で補填するため、本来戦争に使えたはずの資金が修理費用に消えていくのです。
――エネルギー施設への攻撃は市民生活にも影響を与えますが、この点をどう考えますか。
ロシアがウクライナにもたらした悲劇を、擬似的な人道主義で置き換えるべきではありません。ロシアが戦争を止め、軍を撤退させれば、市民がガソリンスタンドで苦労することもなくなります。ただし補足すると、「黒い火花」の作戦においては「参加者の安全」と「民間人に死傷者を出さないこと」が絶対的な条件として徹底されています。
「北方領土は日本に返還すべき」
――ウクライナ軍の無人機部隊での現在の任務について教えてください。
今は数十キロから数百キロ飛べる飛行機型の大型無人機部隊に所属しています。偵察や、爆薬を積んで突撃する「カミカゼ」運用、あるいは前線の 孤立した陣地へ食料や弾薬を空から投下する物流任務を担当しています。
――最後に、北方領土(クリル諸島)や日本についての考えをお聞かせください。
国の偉大さは国土の広さではなく、経済、技術、人々の幸福で決まります。日本はロシアより何十倍も狭い国土でそれを証明しています。もし今「黒い火花」のメンバーがロシアの政権を担っていたら、北方領土問題はとっくに解決し、日本との平和条約も締結されていたでしょう。
1945年、ソ連は中立条約を破って日本を背後から襲い、クリル諸島を奪いました。そこに何の根拠があったのか。返すべきです。あそこには岩と軍事基地以外ほとんど何もなく、自分たちでは発展させられず他人にも渡さない。日本の領土であれば今ごろ繁栄していたはずです。海の中の小さな土地をめぐって緊張を続けるより、返還して日本と良好な隣国関係を築く方がロシアにはるかに大きな利益をもたらします。いつか平和になったウクライナのクリミア、そして素晴らしい国である日本を訪れたいと思っています。