猫は生まれながらにして天才アスリートです。なぜ傑出した身体能力を誇るのか?解き明かすヒントは、昔から続くライフスタイルにあります。今回は、3つの側面から猫の身体能力についてアプローチします。ぜひ最後まで読んでみてください。
1.障害物を軽々とクリアするステップ
足元を一切確認せずに、ドミノなどの障害物を巧みに避けて、スタスタ歩く。なぜ猫はそんな器用なことができるのでしょうか?
実は、「障害物記憶」というものが深く関わっています。「障害物記憶」とは、簡単に言うと、障害物の高さを持続的に覚えておく能力のことです。
まず、猫が障害物をまたぐときの動作を確認してみましょう。
目視によって状況を一瞬で把握し、最初に前足を出します。当然、難なく障害物をクリア。問題となるのは、後ろ足です。前足と同じ高さに持ち上げないと、障害物に引っかかってしまいます。しかし、目がついているわけではないので、後ろ足は障害物の高さを正確につかみきれていません。
そこで出番となるのが「障害物記憶」です。前足でまたいだ障害物の高さを思い出し、同じように後ろ足を持ち上げます。もちろん、引っかかることもありません。
カナダのアルバータ大学の研究チームによれば、「障害物記憶」、つまり、後ろ足が障害物の高さを覚えている時間は、最大で10分も継続したと言います。
一瞬で記憶した情報をもとに、一連の動作を繰り返すことで、あの軽快なステップが生み出されるわけです。
担当の分析チームが現場に直行し、障害物の高さや大きさ、材質などを入念に調べ上げ、足を持ち上げる高さや角度、タイミングについて徹底的に議論。
ようやく結論が出ようとした頃、突然、「異議あり!」とライバル関係にある別の分析チームが登場し、押し問答の末、結局、「後ろ足持ち上げ会議」が紛糾してしまう。
そんなややこしいプロセスを踏むことなく、瞬時に、しかも自然にやってのける。そこに猫のスゴさがあります。
2.速く走れるにはワケがある
足の速さは、猫の優れた身体能力の中でも代表的なものです。もし「よーい、ドン!」で競争したら、陸上の100m走世界記録保持者(9.58秒)でもかないません。時速にして約50km。車のスピードと同じです。
速く走れるのは、身体の構造がスプリント能力に特化しているからです。特に注目したいのは、発達した後ろ足の「速筋」。別名、「白筋」とも呼ばれ、瞬発力を支える重要な筋肉です。さらに、自由自在な柔らかい背骨がバネのようにしなり、爆発的なダッシュ力を生み出します。
際立った瞬発力は、すべて狩りの成功率を高めるためです。仲間と連携しながら狩りする犬と違い、猫の狩りはあくまで単独。身を潜めつつ待ち構え、ここぞというタイミングで電撃的に獲物を襲います。モタモタしたり、足が極端に遅かったりすると、逃げ足の速い獲物には追いつけません。
見方を変えれば、必要性に迫られて、スプリント系の陸上選手になった、とも言えます。もし自由に職業を選べるとしたら、本当は「おまわりさん」になりたかったかもしれません。
行き交う車の間を縫って、見知らぬ家の門をくぐり、堂々と庭先を通過します。塀の上から樋に前足を引っかけ、さらに屋根の上へ。近所を隈なくパトロールする仕事熱心な姿が目に浮かんできます。
3.異次元なジャンプ力
猫のジャンプ力はもはやアニメです。実写とはとうてい思えません。その驚きの能力は、ざっと自分の身長の5倍。よく使われる例では、もし170cmの人だった場合、約8mまで飛べる計算です。マンションで言うと3階に相当します。
たとえば、ベランダで干している布団が下に落ちてしまっても、通りがかりの170cm以上の人に頼めば、ひとっ飛びして3階まで届けてくれる可能性があるわけです。そう考えると、猫のスゴさがよくわかります。
優れた跳躍力を支えるのは、ダッシュ時にも使われる、発達した「白筋」と背骨、関節の柔軟性です。野生時代にさかのぼると、木に登ったり、飛び降りたり、上下運動を日常的に繰り返し、能力に磨きをかけてきました。獲物を追いかけ、最終的に仕留めるうえで、持ち前のジャンプ力は強力な武器となったはずです。
一方、昆虫界に目を移すと、ノミのジャンプ力は、体長の約200倍。170cmの人間に換算すると、約340mです。日本一高いビルの展望台で、寄り添い合って、若いカップルが素敵な夜景に見入っていると、目の前に、地面から飛び上がった約170cmのノミが…。みなさん、愛猫のノミ対策は万全ですか?
まとめ
速く走る、高く飛ぶ、おまけに、障害物もへっちゃら。猫の身体能力は、とても人間では太刀打ちできません。
普段はのんきにヘソ天上等な子でも、スイッチが切り替われば、あっという間に一流アスリートに大変身です。ありえない愛猫の姿を想像し、ムフフと微笑むのも飼い主さんの特権かもしれません。
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