芝公園内の開拓使仮学校跡の碑の前で、日本の先住民族アイヌを想い、語り合う

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-09-09 15:56
芝公園内の開拓使仮学校跡の碑の前で、日本の先住民族アイヌを想い、語り合う

明治政府のアイヌ政策と開拓使仮学校

東京・港区の芝公園の一角に「開拓使仮学校跡」という石碑があります。
明治政府の開拓使は、先住民族のアイヌが暮らす北海道など北方の開拓のための官庁でした。
開拓の指導者養成のための開拓使仮学校は明治5年、1872年に設置されました。
のちの札幌農学校、現在の北海道大学につながるわけですが、仮学校には付属の「北海道土人教育所」がありました。しかし、そのことは石碑の文章に書かれていません。

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8月25日、石碑の前で「アイヌ民族の権利回復を求める会」主催のフィールドワークが行われ、メンバーの加藤登さんがこの場所について説明しました。

加藤登さん(アイヌ民族の権利回復を求める会)
「1872年、開拓使仮学校附属土人教育所と第三官園に38名のアイヌ民族が連れてこられた。そのうち5人が亡くなって、多くの人が2年ぐらいで『もう私は国に帰りたい』というようにして、この学校って2年間しか続かなかったんですね」 

連れてこられたのは、10代から30代の男女で、年少者は日本語の読み書きにそろばん、裁縫、年長者は渋谷にあった第三官園(農園)で、西洋式の農業を学ばされたようです。

北海道土人研究所について調べた、鹿児島純心大学教授の廣瀬健一郎さんは、「アイヌを明治政府の統治に組み込むため、アイヌの世界観、文化、生活のスタイルを破壊するような教育内容で、場当たり的な政策だった」としています。

文明開化をうたっていたこの時代、行儀作法から和服・洋服、慣れない食事を強制され、体調を崩し、亡くなる人が相次いだことについて、廣瀬さんは「親、兄弟、妻に会えないで、ここで亡くなった方たちなんですよね。親、兄弟、子供にも会えないような生活環境。それが与える精神的なプレッシャーというところも一緒に考えないと、ただ病気の死因はこれですよということでは、ちょっと済まない問題があるだろうということを想像しなきゃいけないなというふうに思います」とこの日、補足していました。

故郷を離れ、亡くなったアイヌへの想いを共有する

参加者の1人、宇佐照代さんは北海道・釧路出身のアイヌで、10歳の時、東京に移り住みました。
現在は様々なアイヌ文化の継承に関わり、都内でアイヌ・北海道料理「ハルコロ」を経営しています。
宇佐さんは家族と一緒に参加していましたが、「お墓には、そこには魂はないとわかってるけど、やっぱり自分の先祖のことを想いますよね。今日もここにね、亡くなった方たちの魂があるわけじゃないけど、やっぱりそのときのことを思うのが大事だし、それを思ってみんなで共有しているのを、その子供たちが見るのが大事だと思う」と話していました。

石碑の辺りでは、20年ほど前から、首都圏に暮らすアイヌのグループ「レラの会」を中心に、教育所で亡くなったアイヌ、そして、現在に至るまで、故郷を離れて亡くなったアイヌを一人ひとりを追悼する「イチャルパ」(先祖供養の儀式)を行っています。

レラの会のメンバーもこの日、参加していました。

また、アイヌの権利回復や、明治以降、北海道大学をはじめ、各地の大学の研究者らが墓から掘り出して奪った、アイヌの人骨の返還を求めるといった様々な活動に関わっている日本人、アイヌから見た「和人」も合わせ、20人が参加しました。

最後は参加者全員で黙とうし、連れてこられ、亡くなった5人、そして、アイヌが置かれた状況の中、何らかの事情、理由から、故郷の北海道を離れ、関東で亡くなったアイヌのことを想い、祈りました。

フィールドワークの参加者たちは

参加者による自己紹介の発言より
「同化政策、差別について、この問題をきっかけに、皆さんとこれからも考えていけたらなというふうに思っております」
「ここに無理やり連れてこられたアイヌ民族の無念ですよね。それはやっぱり晴らしたいというか、そういう気持ちがあります」
「ここの碑に初めて来たんですよ。和人として、頭ではわかっていても現実的にね。芝公園っていうと、昔デモでは来たことがありましたけど」
「ここで、集まりがあると聞いて、久しぶりに来ました。過去もしっかり見て、これからもね、見ていく。そういうふうな場所でありたいなと思います」

終了後も場を移して、それぞれに語り合っていました。

過去から現在、そして未来へ

主催した「アイヌ民族の権利回復を求める会」には最近、北海道土人教育所に連れてこられた38人の中の1人の子孫から連絡がありました。

その人は、身内が亡くなったことをきっかけにいろいろと調べ、初めて、自分とこの場所の縁を知ることになったそうです。

宇佐照代さんは「ご親戚というか、身内の方が判明して関心持っていただいたってことは過去のことだけじゃなく、ちゃんと今現在にそれが脈々とね、広がったというか繋がったっていうか、それこそ、これからの未来に繋がりますね。いやびっくりした。いや嬉しいです」と話します。

「開拓使仮学校跡」の石碑は芝公園の4号地、都営地下鉄御成門駅の近くにあります。

追悼の場であり、様々な想いをめぐらし、多様な人、文化が共存する日本列島の現在、未来を考える場でもあります。

TBSラジオ「人権TODAY」担当: 崎山敏也記者

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