King Gnuや Official髭男dism、きゃりーぱみゅぱみゅ、藤井風、Vaundyなど、数多くのアーティストに支持され、ミュージックビデオや公演で「独自の世界観」を創り続けている 特殊メイクアーティスト・快歩(KAIHO)さん 28歳。
【写真を見る】King Gnu ヒゲダン きゃりーぱみゅぱみゅ 藤井風 浅野忠信の作品に参加 特殊メイクアーティスト 快歩(KAIHO)の魅力
俳優の浅野忠信さんが15年ぶりに監督を務め、12月13日から劇場公開される短編映画「男と鳥」(ミラーライアーフィルムズ・シーズン6)では、衣装・特殊メイクを担当。「摩訶不思議な世界観」をつくる上で重要な役割を果たしています。
映画「男と鳥」 監督・脚本 浅野忠信
ゾンビ侍(田中一平)は神から、「この箱を5分後に届けなさい」と頼まれる。男が眠気をこらえながらも進んでいくと、そこへ箒に乗った鳥(阿部進之介)が現れる。箱に関心を示し、男を追いかけ回して奪おうとしてくる鳥だが、鳥がこじ開けようとしても箱は決して開かない。箱をめぐる摩訶不思議な物語。
今年「Forbes JAPAN」が発表した「世界を変える30歳未満」にも選ばれている 快歩さん。その魅力に迫ります。
Q:今回、浅野忠信監督の映画「男と鳥」に参加したきっかけは?
快歩:きっかけは…「ミラーライアーフィルムズ」の発起人でもある「and pictures」の伊藤主税プロデューサーと以前「ゾッキ」という映画を作らせて頂いた事があって、今回の「シーズン6」の監督が俳優の浅野忠信さんに決まり「すごく不思議な企画がきた」「快歩さんが合うと思う」と言われたのがきっかけです。
ゼロから世界観を作ることも含めて、お声がけいただいて、最初は「映画の内容が、わからな過ぎる(笑)」状態だったので、「とにかく浅野さんと1回、直接会わせてください!」とお願いして、「何をしたら良いのだろう?」という所からはじまって、そこから、徐々にイメージをすり合わせて作品を作っていった感じです。
Q:説明を聞いても 全くわからない状況?
快歩:そうですね。最初に頂いた資料が「監督の箇条書きメモ」みたいな物で、「これは何をどう作れば良いのだろう」と… でも自分に頼んでくれているってことは、多分自由に遊べるのかもしれないな?みたいな想いで仕事をさせて頂きました。
Q:具体的に どんな発注が?
快歩:そうですね。「鳥」と「ゾンビ侍」と「石」みたいな… 「石が喋る」って突然言われても、何を作れば良いのだろう?みたいな状態から始まりました。
Q:こだわったポイントは?
快歩:「見たことがない世界観にしたいな」という意識はあって、結構そこは出来たのではないかなと思っていて、 「ゾンビ侍」とかも普通に甲冑ではなくて、「スポーツ用品」を使って甲冑っぽく見せちゃうとか…
あと、鳥の着ぐるみとかも、いわゆる普通の鳥じゃなくて、ちょっと何だろう…。ファンタジー要素がある着ぐるみにしようと思って、鳥の中に入る、阿部(進之介)さんの「顔」も生かして、最終的にキャラクターとして面白くなったらいいな… という想いで、やらせて頂きました。
Q:これを浅野監督に見せたときの反応というのはどうだったんですか?
快歩:すげぇ~笑ってくれました。1回打ち合わせして、たたきのデザインをあげて… その後 もう一度も見せずに衣装合わせ… みたいな流れだったんですけど、すごく喜んでいただけて嬉しかったです。
Q:特に手直しとかはあまりしてない?
快歩:そうですね。フィッティングして、微調整だけ… 撮影の時に 強度的に耐えられるのかとか、そういう手直しはありました。
幼いころに実家で親が買ってきた「墓場鬼太郎」の漫画を読んで妖怪に魅かれ、その後、ティム・バートン監督の映画「ビートルジュース」を観て “絵”ではなく、立体化する特殊メイクを志すようになったという快歩さん。
周囲の同級生が面白がる人気アニメなどには目もくれず、ただひたすら 自分の好きな世界を追求してきたといいます。
Q:快歩さんは幼いころ どういう子どもでしたか?
快歩:子どものころから絵を描いたり、何かモノを作るのが好きで、そこからずっと… 妄想の世界じゃないですけれど、「ファンタジーの世界」はずっと好きで、ひたすら「モノづくり」をやっていて、そこから特殊メイクに出会って、「妄想したものが動き出す」って、めちゃくちゃ面白い! みたいになって、そこからずっとこういう仕事をしています。
若くして、有名俳優が出演する映画の特殊メイクを任された事もありましたが、「ただ言われた通りにつくる」仕事には、あまり魅力を感じなかったといいます。
Q:周りの大人から「そんな事をやっても、(仕事として)食べていけないぞ」みたいに言われたことは?
快歩:ありますあります。めちゃくちゃあります… 特殊メイクの世界でも、自分は結構クリエイティブに振っていて、オリジナリティがある作品ばかりを作っていて、ただ(言われた通りに)特殊メイクをするような仕事ではなかった。
かなり「仕事」は選んでいて…「ただ特殊メイクができる人」として、頼まれる仕事はなくて、そのこと(仕事を選ぶため収入は不安定)を心配してくれる人もいたのですが、それでも自分の信じる道をやり続けてったら、こういう世界観でも好きなことができるようになっていったので、そこは「遊んでいて、良かったな」とは思っています。
Q:収入が無い時は、どんなアルバイトを?
快歩:居酒屋と、お弁当屋さんと、組み立て配送のバイト… オフィスにデスクとか、運んだりとか、工場の屋根を直したりとか… めちゃくちゃ色々なバイトをしていました。バイトを掛け持ちして、生活費と材料費を稼いで…(作品をつくるため)材料費にバイト代が全部溶ける… みたいな生活でした。
Q:特殊メイクの仕事をやめようと思ったことはないんですか?
快歩:意外と無くて…(笑) でも、かといって「これで(仕事として)食っていこう!」と決めたのも、なんか成り行きで…「作るのは面白い」「妄想したモノが出現するのが面白い」みたいになって、気づいたら、ずっと続けていて、だんだん仕事になっていった…という感じです。
Q:その自信がぶれなかったのは何でだと?
快歩:何で…ですかね? なんか「自分が見たことの無いものを創りたい」という感情が、すごく強かったので、それがやりたくて生きている部分があって、「特殊メイクがやりたい」というよりは「見たことが無いものを生み出したい」というのが、優先順位の最初にあった衝動なんで… それもあって多分、続けてこれたのではないかなと。
バイトをかけもちしながら、四畳半の部屋で、無我夢中で創作を続ける日々・・・SNSにアップしていた作品のひとつが、たまたまKing Gnuの目に留まり、そこから次々に仕事の依頼が舞い込みます。
■快歩さんの魅力について
これまで、King Gnuの井口さんを宇宙人に変身させたり、ボクサーに扮した藤井 風さんの顔をボコボコにしたりとミュージックビデオを中心に大活躍している快歩さん。
「発注する側のイメージを超えた作品を提案してくれるのが魅力」と、仕事をした人は口をそろえます。
素顔を明かしていない人気シンガー yamaさんのマスクは、当時 メディアに初出演するに当たって、快歩さんが手掛けたものです。
「とりあえず顔を隠したい」というオーダーで、本人もわからない、マネージャーもわからない、誰も正解をわからない状態での制作だったといいます。
「それでも『面白そう』が勝つから、この仕事はやめられない」と話す マイペースな快歩さんですが、「男と鳥」の監督を務めた浅野忠信さんは、さらにマイペースだったようで…
快歩:現場で、自分が見ていない間に急に撮影が始まってしまうこともありました… 個人的には「特殊メイクが崩れていても面白いんじゃないか」と思っていて、映画の中でも(ゾンビ侍の)カツラが思いっきりずれて、中の毛が見えているシーンが実はあって、でも「それはそれで面白いな」って思っています。
■映画「男と鳥」 「こだわりポイント①」 鳥の目玉
快歩:これはFRPという樹脂で出来ていて、車のバンパーとかに使うような素材なのですが、硬い素材で、しっかりしたものを球体状に成形して、それに何層もレイヤーを重ねて 色をつけていきました。
快歩:結構、目って結構大事だと思ってて、人も生き物もだけど、目からの印象がすごく強くなるので、目は、とにかく時間をかけるようにしています。レイヤーを何層も重ねて、奥行きのある色の使い方にして、最終的に薄いウレタンの膜みたいなものをコーティングしているんですけど、「よりリアリティが出るように」という事は意識してやっています。
■映画「男と鳥」 「こだわりポイント②」 ゾンビ侍の甲冑
快歩:オートバイのプロテクターだったり、野球のキャッチャー用の防具だったり、アメフト?だったり 「何でもあり」っていうので、混ぜちゃって、「見たことの無い甲冑を作ろう」というテーマがあった。最初はダンボールで作る… みたいな案もあったのですが、なんかもう全然違うことをやってやろう… みたいな流れで、最終的に こういう形になりました。
Q:材料は、どこで探してくるんですか?
快歩:生地を売っている店とかに行ったりもするんですけど、結構自分は、古着から引っ張ってきたりとか… 今回のキャラクターは全部なんですが、キャラとして「生活している」であろう者たちなので… 「綺麗すぎる素材」を使ってしまうと、「嘘」になってしまうと思いました。綺麗な布を使っているんですけど、全部、どこかに「汚し」を入れたりして、「使用感」は意識して作るようにしています。
メイクも そうなんですが、全部ちょっと汚すとか ちょっと使用感を出す みたいな工夫をしていて それで(ロケ地となった)「秋田の雪景色」に馴染んだのではないかな?とは思っていますね。
Q仕事をしていて、喜びを感じるのはどんな時ですか?
快歩:そうですね… 撮影初日に特殊メイクをして、この衣装を着て、現場入りした時のスタッフのリアクション…「やべえキャラ出てきた!」みたいな反応を見るのが、すごい大好きです。
Q:これからクリエイターを目指す若者に対して
快歩:「面白い!」と思ったことは躊躇せずに ひたすら やり続けていった方が、
自分の未来に繋がっていくのではないかな…と思います。何かで「ストッパー」をかけちゃうよりも、1回下手でも何でもいいから「やってみる」。
なので事故ったら事故ったで、それがまた「次」に繋がるので、どんどん思いついたらやる。それは、今も自分の中で大事にしてる点なので、そうしてもらえたら良いな…とは思っています。
あどけない笑顔の陰に、とてつもなく強い、ブレない軸を持っている快歩さん。今後の活動からも目が離せません。
MIRRORLIAR FILMS (ミラーライアーフィルムズ)
「映画づくり」を通じて、クリエイターの発掘・育成や 地方創生に取り組むプロジェクト。発起人は俳優の山田孝之さん、阿部進之介さん、映画プロデューサーの伊藤主税さん。2020年に始動し、日本を代表する俳優・クリエイターらが 次々に参加している。シーズン5・シーズン6でロケ地となった秋田市では、11月16日に先行上映イベント「AKITA文化祭」が開催された。シーズン7は愛知県東海市 シーズン8は岡山県で開催されることが決定している。
【担当:芸能情報ステーション】