壮絶なリハビリ経て小児がん克服「いつ死ぬかも分からない人生楽しむしかない」クライマー&教師の二刀流で世界王者に

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-03-25 06:00
壮絶なリハビリ経て小児がん克服「いつ死ぬかも分からない人生楽しむしかない」クライマー&教師の二刀流で世界王者に

パラクライミングで2023年に世界王者となった髙野正、41歳。その上半身は、筋肉の鎧で覆われている。13歳の時、左足に悪性の腫瘍が見つかり手術。抗がん剤や過酷なリハビリを乗り越え病を克服したが、左足に障がいが残った。

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それでも前だけを見た髙野は、夢だった小学校の教師となり、33歳でパラクライミングに挑戦。競技歴わずか6年で世界一まで上り詰めた。クライミングと先生の”二刀流”に挑む髙野の人生観とはー。

13歳で小児がんに・・・

パラクライミングとは、視覚に障がいがある選手や、義足など身体機能障がいのある選手が、高さ15mほどの壁に設定されたルートを登り、到達した高さを競う競技(オリンピック種目でいう「リード」にあたる)。3年後に迫ったロスパラリンピックでも追加競技となった、今注目のパラスポーツだ。

髙野:(カメラに向かって)僕の筋肉、キレてますか?

髙野は、2023年に世界選手権を初制覇すると、24年はW杯で3戦全勝とトップクライマーの座に上り詰めた。

髙野:ただ金メダルを取るだけじゃなくて、やっぱり完登(課題を登り切ること)して金メダルを取りたいなっていうのが一番の目標です。

中学1年の時、剣道の授業で正座ができないほど左足が腫れあがり、病院を受診。診断の結果、がんの一種「ユーイング肉腫」と告げられた。

髙野:(医師から)1年以上治療にかかるから、1年間は最低でも学校に行けないよと言われたことが一番辛かったですね。学校行って給食食べたり、体を動かしたり、友達と接することがすごく好きだったので、それができなくなるっていうのが一番辛かったですね。

左足の筋肉に、神経や血管などを巻き込むような形で悪性腫瘍ができていた。治療法としては切断が一般的。切断するかどうかの判断は、髙野本人に委ねられた。当時の髙野は「自分は絶対死なない。絶対助かる」と思っていた。「足を残すことしか考えていなかった」と、今、笑顔で語る。

一方、母親は医療関係者。今後のことを考え「命が助かるのであれば切断してほしい」と願った。親子の意見は食い違いを見せたが、最終的には髙野本人の意見を尊重し、切断しない手術を行い左足を残した。

髙野:(医師からは)神経をいじるからしびれや麻痺が残るかもしれない。筋肉も除去するから、走る、飛ぶ、跳ねる、そういったこともできなくなる。リハビリも大変だよって言われました。そういうことも全部承知の上で自分で決めて残したので。

当時の闘病生活を、髙野はこう振り返る。

髙野:入院生活で一番つらかったのは、もしかしたらリハビリだったかもしれないっすね。抗がん剤も副作用で気持ち悪いだとか、髪の毛抜けてしまうとかっていうのもあったんですけども、やっぱり痛みが一番つらくて、やっぱり泣きましたね、痛くて。

再発するかもしれないという恐怖や不安。過酷なリハビリの日々。でも、自分で決めたから乗り越えられた。

髙野:リハビリはすごく辛かったんですけども、乗り越えられましたね。だから自分で決めるっていうのはすごく俺は大切だなと思っていて。もしこれが仮に親が決めたりしてたとしたら、辛さだとかを全部人に当たっていたかもしれない。だから自分で決めるっていうのは大切かなっていつも思うんですよね。

病は克服したが、左足は不自由に

壮絶なリハビリを経て歩けるまでに回復した髙野だったが、手術をした左足のひざから下は、ほとんど動かすことができなくなった。右足と違い、筋肉もほぼついていない。

髙野:足を上下に動かすのが全然できないのと、下に踏ん張ることも全然できない。指先なんかもう本当に力が入らないっすね。

クライミングは本来、手足の全てを使って壁を登っていく。左足を使えない髙野は、力のほとんどを両腕に頼っている。左足は、体が流れるのを抑えているだけという。この独自のクライミングを可能にするため、人一倍トレーニングを重ね、上半身を鍛え上げてきた。

クライミングと教師の二刀流

髙野が努力を続ける理由は、もう一つの顔にある。埼玉県内の小学校に教師として勤め、現在は4年生の担任をしている。

大学4年の時にフィリピンでスラム街の子どもたちと触れ合い芽生えた教師という職業への夢を叶えるべく、民間企業で働きながら通信教育で勉強し、28歳で小学校の先生になった。

教え子たちに“髙野先生”の印象を聞いてみると・・・。

男子:好きな所は、筋肉モリモリの所。

男子:めっちゃ優しいよ!

男子:先生やってるのにも関わらず、スポーツ選手なのはすごい!

髙野がパラクライミングを始めたのも、子どもたちの存在があったからだという。

髙野:子どもたちには『頑張れ』とか『努力しろ』って言ってる割には、自分は何もしてないな、『このままじゃいけないな』と思って、子どもたちに『先生も頑張れる何かを見つけるよ』って調べたら、近くにクライミングジムがあることを知って、そこから始めたのがきっかけですかね。

髙野は33歳でクライミングを始めると、その魅力にとりつかれ、のめり込んだ。ほぼ毎日ジムに通い、2、3時間は練習していたという。そんなたゆまぬ努力が実を結び、競技歴わずか6年で世界王者にまで上り詰めた。

髙野:前向きに生きることの素晴らしさだとか、努力することの大切さだとかっていう、伝えたい対象(子どもたち)が目の前にいるっていうのは、かなり大きな強みだなっていうふうには感じていて。

日本選手権は惜しくも2位

髙野は3月15日に行われたパラクライミングのジャパンシリーズ第2戦、日本選手権に出場した。

序盤、上半身のパワーをいかして順調に登っていったが、終盤の傾斜130度という難所で指を滑らせ落下。惜しくも2位となった髙野は、9月に行われる世界選手権でのリベンジを誓った。

髙野:自分の登りを見て、勇気だとか希望だとかを伝えていけたらいいかなというふうに、自分の今の課題っていうのは明確になってきているので、世界選手権では完登で優勝できるように頑張りたいと思います。

2028年ロスパラリンピック 狙うは初代王者

さらにその先の2028年には世界最高峰の舞台、パラリンピックも待っている。

髙野:ロサンゼルスパラリンピックで、ただ金メダルを取るだけじゃなくて、やっぱり完登して金メダル取りたいなっていうのが一番の目標です。パラリンピックは一つの大きな大会でもありますし、いろんな方が見てくださる。子どもたちもそうですし、僕の場合はがんサバイバーということで、小児がんで今闘っているような人たちだとか、今、がんで闘っているような人たちが、自分の姿を見て、生きる希望だとか、そういう形にも繋がっていければいいと思うので、自分が活躍していろんな方々に自分がお世話になった分、今度は逆に、いろんな人たちにそういった夢や希望を伝えられるようにできたらいいかなっていうふうに思ってます。

クライミングと教師という二刀流を続ける髙野は、こんな言葉を残した。

髙野:せっかく生きるんだったら楽しく生きた方がよくないですか。でもこれもやっぱり病気を経験してきてる所があって。一緒に戦ってきた仲間は、ほとんど亡くなっちゃったんですよね。最初、そういった時にはすごく落ち込んでたんですけども、このままじゃいかんなと思って、その人たちの分まで生きようと思って今まで来てるんで、いつ死ぬかも分からない人生を楽しむしかないなって、それだけです。

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