1月下旬に春闘スタート…「物価に勝つ賃上げ」のための“4つの提言”とは?【Bizスクエア】

2024年、25年と2年連続で5%超えの賃上げを果たした日本の賃金。1月下旬から26年の春闘がスタートするが、物価上昇に賃金は追いつくのか?そのためにすべきこととは?
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「いきなり安い商品で“わくわく感”」
物価高に苦しむ消費者を応援しようと、“特売”に力を入れている『スーパーセルシオ和田町店』(神奈川・横浜市)。
週末や月に一度の特売にも増して客の評判が高いのが、平日のほぼ毎日“事前告知なし”で実施される「ゲリラサービス」と名づけられた特売だ。
商品を大量に購入することで安く仕入れ、商品によっては半額以下で提供しているという。
この「ゲリラサービス」目的でほぼ毎日来店するという男性はー
40代男性・会社員:
「いきなり安い商品がある。この商店街の中では一番わくわく感があって来る」
店長は、物価高による客の変化を感じていると話す。
『スーパーセルシオ』鶴田英明店長:
「今までAの商品を買ってたものをBの商品にしよう。“今まで好んで買っていた商品が高くなってしまったので別の商品で我慢しよう”みたいな動きは結構見られる」
高まる「食品の節約志向」
POSデータ(販売時情報)やクレジットカードの利用履歴から物価や消費動向を分析する『ナウキャスト』の中山さんは、「消費者が値上げするブランドを敬遠する傾向が強くなった」と指摘する。
例えばスーパーでのマヨネーズの2025年の売上高。
シェアトップのA社は、25年9月の値上げ直後から売上げを落とし、値上げを見送ったB社は相反して大きく売上げを伸ばしている。
『ナウキャスト』中山公汰アナリスト:
「プレゼンス(存在感)が一定あるメーカーでも、値上げでシェアを落とすことがある。特に気になっているのが、その状況が9月から直近12月までずっと続いていて、影響が長くより節約志向が高まっていると感じる」
経団連「基本給の底上げ」を賃金交渉の標準に
働く人が受け取る賃金から物価上昇分を差し引いた「実質賃金」は、11か月連続でマイナスという状況だが、2026年は改善が期待できるのだろうか。
経団連は20日、春闘の基本指針を発表し「物価上昇率を上回る賃金の伸びが社会的に求められている」と明記。“基本給の底上げ(ベースアップ)の検討が賃金交渉の標準”と位置づけた。
また、約700万人が加盟する労働組合の全国組織「連合」の春闘の方針では▼全体の賃上げ要求「5%以上」(ベア3%以上)▼実質賃金「1%上昇軌道に乗せる」ことを目指している。
ただ、2025年の「平均消費者物価指数」は、生鮮品を除く総合で前年比「3.1%」上昇。賃上げ要求「5%以上」で十分なのだろうかー
『連合』芳野友子会長(21日):
「目標は全体で5%以上なので、出せるところはさらに上を目指して欲しい。これから協議交渉を進めるところは、しっかり世間相場を作っていくのも大事。格差是正にも結果的に良い影響が出てくる」
「高いインフレ予想が定着しつつある」
賃上げをしてもなかなか物価上昇に追いつかないー
物価の実証研究の第一人者でもある渡辺努さんは「物価の基調は強い」と話すが、実際に日銀が目標としている「インフレ2%」を超えている企業・家計の割合を調べたところ、両方とも半数以上を占めたという。
<インフレ2%超の企業と家計>
▼2025年10月⇒【企業63.7%】【家計56.0%】
※企業は6000社の販売履歴データ・家計は5万世帯の購買履歴データより算出
さらに<今後のインフレ予想>では、企業・家計ともに3割以上が「5~10%インフレが進む」と見込んでいるという結果になった。
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「一番新しい結果で見ても5%絡みのところで上がっていくと見る家計・企業が多い。しかも、毎月見ていても安定的同じような結果になるので、高いインフレ予想が定着してきているかなと思う」
日本の労働者は「賃上げに悲観的」
物価が上がり続けていくとすると、いつになったら実質賃金がプラスになるのかー
「賃金に対する意識」を国際比較したデータでは、日本の労働者の“悲観的予想”が際立っている。
<Q:自分の実質賃金は今後どうなるか>という問いに対し、イギリス、アメリカ、ドイツなど欧米諸国では「上がる・据え置き」と「下落」がほぼ同じ割合なのに対し、日本だけは「下落」が圧倒的に多い。▼下落78%▼据え置き17%▼上昇4%
その悲観的な予想が「消費にも大きく影響する」という。
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「賃上げに悲観的だと、何か大きな買い物をしようとか、子どもの教育にお金を投資をしようなどという時にどうしても躊躇してしまう。この予想を何とか立て直さないと、消費に力強さを期待できない。1回だけの春闘でどうこうではなく、継続的に賃上げが続いていくことが大事。私は“春闘のやり方に大きく手を加えていかないと悲観的な予想は直っていかない”と思っている」
春闘交渉で必要な「4つのこと」
では、春闘のやり方をどう変えるべきなのかー
去年秋、持続的な5%超の賃上げ実現の提言を行った連合の評価委員会(未来づくり春闘)で「実現する為の4つの提言」をまとめている。
【提言1】過去のインフレ実績ではなく“将来のインフレ見通し”を要求基準に反映させる
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「春闘は“過去のインフレ率”がどうだったかを常に反映させる仕組みになっている。例えば26年春闘なら2025年度のインフレ率」
――過去の分だけ上げてくれとなると、翌年も同じように上がるとまた追いつかないというのが続いてしまうと。
渡辺さん:
「そこがイタチごっこになっていて実質賃金が下がってしまう理由。なので、過去のものではなく26年なら26年度、あるいはそれ以降にどれぐらいインフレになりそうかの見通しをしっかり作って春闘の賃上げの要求に反映して欲しいということ」
【提言2】“実質賃金がマイナスの場合、後の賃上げで補う”キャッチアップの仕組みを導入
渡辺さん:
「今年だけでなく昨年も、その前もマイナスだったのだからその分をのせてくれということ。それを言う権利を組合に認めるべきだし、経営者の方もそう言われたらたしっかりと対応するという条項、約束事を両者で作るべき」
【提言3】“人手不足要因”を明確に要求基準に反映させる
渡辺さん:
「もちろん人手不足なのでしっかりと賃上げしたいということは労働組合の交渉の場で行われている。ただ、どのぐらいの人手不足で、だからこのぐらいの賃上げが欲しいというような、定量的なことは一切起こっていない。学者がそういうことをきちんとやらなかった面もあるが、きちんと数字に出して経営陣にぶつけるべき」
――つまりこれくらい賃金を上げれば人手不足が解消するだろうという仮説を作って、それに応じた額を上乗せすればいいじゃないかと。
渡辺さん:
「人手不足要因を考えたときに、現状でいうと3%ぐらい実質賃金が低すぎると思うので、その3%を3年間に分けて1%ずつ余分に要求していくとちょうどいい。5%に1%をのせて6%ぐらい要求したらどうかと連合の芳野会長にも言ったが、色んな事情もあるらしくそうはならなかった。ただ、大企業は明らかに賃上げする体力があると思うし、中小企業も賃上げを行っていかないと格差が広がってしまう。連合は少し低めにいっているが、実際に交渉される際は6%ぐらいをめどに考えてもらえたらと思う」
【提言4】情報発信で労働者の“賃金予想を安定化”
――渡辺さんはデフレ時代に、慢性デフレの原因を研究しいろんな提言をしてきた。物価を上げることが大事だと話しその通りになってる。ところが賃金が追いつかないので「だったら物価下げてよ」という感じになっているが、ここが勝負どころだと。
渡辺さん:
「いろんなデータを見ても、物価と賃金が上がる状況が作られてきているのは間違いないと思うが、最後のピース、実質賃金が上がっていかない。それから先々の実質賃金についても皆さんの自信が持てないという、ここが最後に残ったハードル。そこを何としてもクリアすることがまず大事」
そのためには、まず足元の実質賃金を上げることが必要だが、政府の役割も大きいという。
渡辺さん:
「政府が実質賃金の先行きについて、『この政策で5年後10年後にはこうなる』と見せて約束していくことが大事なのではと思う。消費税減税とかそういうことではなくて、賃金を上げていくことをコミットしていくことが今求められている」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2026年1月24日放送より)