PFAS問題 揺れる沖縄、除去費用めぐる国との溝「汚されたのに私たちが払うのか」【報道特集】

有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」。人体への有害性が指摘され、4月から水道の水質基準が設けられました。10年前、全国で最も早く水道水から「PFAS」が検出された沖縄。発生源の調査や取り除く費用の負担で揺れています。
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沖縄の水とPFAS 母たちの不安
3月下旬、沖縄県南部の医療施設に集まったのは、妊婦や産後1年未満の女性、約100人。
医師や研究者らのグループが行った血液検査。「PFAS」と呼ばれる物質の血中濃度を調べる。
2025年10月に出産した女性
「もしPFASで汚染されていたと考えると、余計に不安になるので…」
「PFAS」は1万種類以上ある有機フッ素化合物の総称だ。水や油をはじき、熱に強い特性をいかし、調理器具や防水用品、半導体の製造などに幅広く使われてきた。
しかし、発がん性や胎児への影響など、人体への有害性が指摘されるようになり、国はPFASの中のPFOS(ピーフォス)など、3種類の製造と輸入を禁止している。
沖縄では10年前、45万人に供給される北谷浄水場の水からPFASが検出された。その後、対策が取られ、水道水は現在の基準値未満に抑えられている。
だが、この血液検査は、根強く残る不安の声に応えようと行われた。
妊娠7か月の女性
「ニュースでよくPFASとか聞くので、不安があって検査を受けた感じですね」
2025年8月に出産した女性
「早産経験があったので、PFASや自分の体の中で何が起きているのか気になって」
検査を受けたこの女性は、2月に男の子を出産したばかりだ。ミルクを作るのに、わざわざ別の浄水場の水を使っているという。
2月に出産した女性
「蓄積されるものって聞いたので。浄水されるものを付けてはいるんですけど、それだけでは不安は拭えないのが本音ではありますね」
検査の実施を行政に求めてきた町田直美さん。
市民団体「宜野湾ちゅら水会」町田直美さん
「子どもたちがこの水を長年飲んでいて、小さい頃から飲んでいるっていうことが気になりました」
北谷浄水場は県内最大規模の施設で、町田さんが暮らす宜野湾市も、その給水エリアに入っている。
浄水された水からは、2015年に最大で120ng/Lが検出。この当時、国内には安全基準はなかったが、現在の水質基準の2.4倍にあたる。
さらに、水源に注ぐ川からは、最大で1675ng/Lという高濃度のPFASが検出された。
町田さんはカフェを営み、無農薬にこだわった野菜を提供してきた。それだけにショックは大きかったと話す。
町田直美さん
「調味料に気をつかい、油、野菜に気をつかい、できるだけ人の身体に毒が入らないように考えながら、手間かけて金かけてやってるのに。肝心の水にPFOSが入っているってどういうことって、怒りが先に出てきましたね」
町田さんは、PFASについて仲間と調べ始めた。
アメリカではPFASの一種・PFOA(ピーフォア)が極めて高い濃度で検出され、健康被害が出ていたことを知った。
約7万人の調査で、腎臓や精巣のがん、妊娠高血圧症などと関連する可能性が認められた。別の研究では早産や低体重出生児との関連性も指摘されていた。
南デンマーク大学(環境医学) フィリップ・グランショーン教授
「母親の血液中のPFASは胎盤を通って胎児の血液に入ります。そして、胎児の臓器の発達に影響を及ぼします。胎児は血中のPFAS濃度が母体の10倍程度まで上昇する可能性があります。次の世代を守る事が必要です」
“永遠の化学物質”と呼ばれるPFASは、分解されず体内からも排出されにくい。母から子へ濃縮されて移行する恐れもあるという。
沖縄の水道水から検出された値は、アメリカの深刻な汚染地域ほど高くはなかった。
そして、高機能粒状活性炭によってPFAS濃度を低減し、現在の水質基準未満に保っている。
だが、町田さんは不安を拭えなかった。
町田直美さん
「もしかしてうちの娘、妊娠性高血圧症ってこういうこと?って思って。孫の心疾患もあって」
同じ思いを抱いた仲宗根由美さんも北谷浄水場の水を飲んでいた。当時、3人目の子どもを妊娠中だった。
仲宗根由美さん
「とにかく自分が使っている水、子どもたちに飲ませている水に入っているPFASをどうにかしないといけない」
2人は北谷浄水場の水を飲んでいる人たちへの健康調査を行ってほしいと、声を上げ始めた。
仲宗根由美さん
「私のような妊婦がこの汚染物質を体内に取り込むと、私の母体よりも胎児の方に多くその物質がいく。とても大きな不安を感じました」
だが、国は「国内で健康被害は確認されていない」とし、県も当時、健康調査への動きは鈍かった。
それでも、町田さんと仲宗根さんは声を上げ続けた。
町田直美さん
「住民の血液検査、疫学調査を実施することを求めます」
市民が始めたPFAS血液調査
町田直美さんら市民グループは、自ら血液検査を実現しようと動き出した。
協力したのは、PFAS研究を専門とする、京都府立大学の原田浩二教授だった。
京都府立大学(環境衛生学)原田浩二 教授
「市民が自主的に主体的になって、この問題というのを明らかにしてきたと。市民による調査というのがきっかけになったということが、一番大きなところではないかと考えております」
4年前、400人近くの血液検査を実施した。
健康リスクが高まる可能性があるとされる、アメリカの学術機関が示す血中濃度の指針値。その値を超えた人が、北谷浄水場の給水エリアにある3つの自治体では、いずれも半数以上にのぼった。
さらに細かく分析すると…
京都府立大学(環境衛生学)原田浩二 教授
「水道水とかを飲んでいない、もしくは、浄水器を付けていると答えた方の方が、同じ地域の中でも血液中濃度というのは低かった。血液中濃度が高いということは、水道水がその一つの原因だろう」
そして、3月に行われた妊産婦への検査。今回、検査を行ったのは沖縄の民間病院の医師だった。
群星沖縄臨床研修センターの徳田安春医師は、ずっと気にかけているデータがあった。
群星沖縄臨床研修センター 徳田安春 センター長
「沖縄では生まれた子どもの体重が全国平均より小さいというデータが以前からありますので、(PFASが)要因の一つになっている可能性もありますから、これは大変重要な疫学研究になると思います」
沖縄では2500グラム未満で産まれる低体重出生児の割合が、1980年の調査開始以降、全国平均と比べ、高い状態が続いている。
10代の妊娠出産率や喫煙率の高さなども原因の可能性があると指摘されてきたが、徳田医師は、PFASとの関連も調べる必要があると考えている。
町田直美さん
「健康被害とか疫学調査が進んでいけば、子どもたち、特に女性が妊娠出産した時の大きな力になると思います。本当に感謝しています」
埋まらない政府との溝、米軍基地の調査はなぜ進まない?
PFASの発生源と疑われているのが、アメリカ軍基地で使われてきた“泡消火剤”だ。
極東最大の在日アメリカ軍・嘉手納基地。10年前、PFASが検出された北谷浄水場は、嘉手納基地周辺を取水源としている。
このため沖縄県は、当初から発生源は嘉手納基地の疑いが強いとみてきた。
沖縄県企業局 宮城力 局長
「嘉手納基地があって地下水がこう流れていて、基地に流入する前の上流側ではPFOS濃度は低い値を示しております。これが基地の下を通過して下流側になりますと、PFOS濃度が非常に高くなっている」
「加えて、基地内にある嘉手納井戸群、これも従来から水源として活用していて、この井戸群のPFOS濃度も高い」
「県としては、PFOS等の主な汚染源は嘉手納基地であると考えている」
嘉手納基地や普天間基地周辺の湧き水や河川などでも、暫定指針値を超えるPFASが次々と検出されてきた。3月には、これまでで最大の2800ng/Lという値まで出ている。
だが、アメリカ軍は「日米地位協定」をもとに、沖縄県の立入調査を拒み続けてきた。日本政府は基地内の調査が出来ない中で、原因はわからないという立場を崩していない。
2024年、町田さんたちは、国際社会に訴えるため国連に向かった。
その訴えが届き、国連の「女性差別撤廃委員会」が日本政府に勧告を出した。水道水の検査について報告を求めるものだった。
これを受けて町田さんたちは国に対し、汚染源の徹底調査を求めた。しかし…
防衛省の担当者
「PFAS等の検出と在日米軍の因果関係については、確たることを申し上げるのは困難」
環境省の担当者
「過去さまざまな用途で使用されてきたことから、必ずしも米軍基地との関連性については確認をされていない」
厚生労働省の担当者
「現時点での知見では、どの程度の血中濃度で、どのような健康影響が個人に生じるか明らかとなっておらず」
国の回答は変わらなかった。
町田直美さん
「勧告をきちんと受け止めて、子ども・女性を守るために、汚染源を特定してください。血液調査をぜひお願いします。放置も罪のひとつです。人権侵害です」
2025年9月、町田さんたちの怒りをさらにかきたてる出来事があった。
北谷浄水場でPFASを除去する高機能粒状活性炭。その導入費用16億円のうち10億円を防衛省が負担していた。
だが、防衛省は年間3.5億円以上と見込まれる活性炭の更新費用については、今後、県がすべて負担するよう求めてきたのだ。
これに対し、沖縄県の担当者は…
沖縄県企業局 宮城力 局長
「企業局としましては、PFOS等の主な汚染源がある蓋然性が高い米軍嘉手納基地、ここの対策費用は、施設提供者である国が支援していただきたい。防衛省はじめ、沖縄担当大臣が来沖する際にあっても、PFOS対策の費用の負担について要請をしてきたところです。国費が受けられないということになれば、今後の水道料金に転嫁することが懸念されます」
町田さんと共に活動を続ける与那城千恵美さんは、憤りを隠せなかった。
与那城千恵美さん
「なんで人が汚したのを、私たちがお金払わないといけないのって。でーじわじわじー(怒りが湧いてきて)、やめさせないといけないと思って、署名活動を始めることにしました」
町田さんたちは2025年12月、約4万筆の署名を携え、国との交渉に向かった。
防衛省側は、2018年に一度調査はしたが「PFASとアメリカ軍基地との因果関係を明らかにするために行ったものではない」とした。
沖縄県の市民団体の男性
「放置してるっていうことですね」
防衛省の担当者
「米側との調整が整わなかったためできなかった」
結局、基地が原因だと特定できない以上、「PFASを除去する活性炭の更新費用は負担できない」という国の立場は変わらなかった。
町田直美さん
「汚されたのに私たちがお金も払うの?って。単純にそういうことですよ。私たちが汚されたんですよ。私たちが汚したんじゃない。米軍じゃないならどこなんですか?早急に解明してくださいよ」
「何ひとつ伝わったっていう手応えはありません」
調査拒否の米軍が給水要請、沖縄だけではないPFAS問題
この1週間後、防衛省はアメリカ軍の回答を沖縄県に伝達した。
科学的根拠が明確な調査データを県が示さなかったため、立ち入り調査を許可しなかったとの内容だった。
そして同じ日に、今度はアメリカ軍がその北谷浄水場の水を供給してほしいと要請していたことが明らかになった。
北谷町 渡久地政志 町長
「米軍からキャンプ桑江の浄水場が、昨年4月に定められたPFASの米国基準を満たしていないことから、『北谷町からの給水に切り替えたい』との要望がござました」
基地内の水道水が、アメリカ国内の規制値を超えていたためだという。基地問題に詳しい沖縄国際大学の前泊博盛教授は…
沖縄国際大学 前泊博盛 教授
「検査もさせない。自分たちで汚染しておきながら。その汚染の状況を棚上げにして、きれいな水をよこせというのは、ちょっと虫が良すぎますよね。こういうことをちゃんと日本政府が言わないといけないんですけどね」
4月に初めてPFASについて、水道水の水質基準が定められた。1リットルあたり50ng/L。2024年に国が公表した調査では、その値を超える水道事業者はゼロになったとしている。
一方、地下水では、大阪・熊取町で最大7万3000ng/L。河川では、岡山・吉備中央町で7万2000ng/Lと、暫定指針値の1400倍を超える汚染が確認されている。発生源は、化学工場や産業廃棄物との関係も指摘されている。
全国の市民団体と国との間では、50ng/Lという水質基準が適切かどうかをめぐって激しい議論が続いている。
内閣府の担当者
「(水質基準は)欧米各国でもバラバラだという認識でいます。例えば4ng/Lといっているアメリカも、実際には2029年から31年に延長して、現在70ng/Lで運用されていると聞いていますし、イギリスでは48品目を100ng/Lで運用する」
岡山の市民団体の男性
「先ほどの諸外国の比較をみても、高い国を言って、オランダ・デンマーク・ノルウェーなどは4ng/Lとか2ng/Lとか。そちらを挙げないで、緩い方をあげるというのはちょっと姿勢として…」
町田直美さん
「なんでアメリカが70ng/Lから4ng/Lに下がったのに、日本はずっと50ng/Lのままなのか、不思議でたまりません」
発生源をめぐるアメリカ軍基地への調査すら行われていない沖縄。水道水の基準がようやく定められたことが、問題解決への一歩になればと町田さんは願っている。
町田直美さん
「私たちの切なる要求に対して、(国は)せめて軍事基地を受け入れてきたんだから、それに対するいろんな害、健康に関する害っていうことに関して、何でもっと真摯に向き合ってくれないのか。とても悔しい思いです。とにかく一歩でも前に進みたい。それが私たちの願いです」